「正規分布」は、統計学の王様とも言える概念です。
19世紀、数学者のガウスは発見しました。
自然界のあらゆるデータ――人間の身長、植物の大きさ、試験の点数、工場の部品サイズ――を集めてグラフにすると、不思議なことに「左右対称の釣り鐘型(ベルカーブ)」になることを。

この形が意味するのはシンプルです。
- 平均値(真ん中)にデータの大半が集中する。
- 端っこ(極端な値)に行けば行くほど、数は激減する。
まるで、神様が、世界をバランスよく設計するためにこの「正規分布」という定規を使ったかのようです。
正規分布は未来予知のためのセンサー
ビジネスにおいて、この正規分布が重要なのは、データが正規分布に従うとわかれば、「確率」を使って未来を予測できるからです。
以前紹介した「シックスシグマ」も、この正規分布の性質を応用して、不良品の発生率を予測・管理しています。
品質管理において正規分布を活用することで、「異常」を検知しやすくなります。
「工場の機械の温度」がいつも正規分布しているのに、ある日突然、グラフの形が崩れたとしたら?
「何かがおかしい。故障の前兆かもしれない」と、トラブルが起きる前に手を打つことができます。
正規分布は、世界が「正常」に回っているかをチェックするためのセンサーの役割を果たします。
マーケティングにおける正規分布
ただし、正規分布が良くあてはまるのは、身長や体重など「自然界」。
「人間が作った社会」のデータにおいては、全く別の形が現れることもままあります。
例えば、「YouTuberの登録者数」や「個人の資産額」。
これらをグラフにすると、釣り鐘型にはなりません。
「ごく一部の勝者が総取りし、残りの大半は底辺にいる」という、L字型のグラフになります(これを「べき乗則」や「ロングテール」と呼びます。
正規分布の世界では、身長3メートルの巨人はいませんが、べき乗則の世界では、ビル・ゲイツや大谷翔平のような、平均の数万倍を稼ぐ「巨人」が存在します。
そして、マーケティングの世界では、この「外れ値」といえる存在を意識することが重要なのです。
顧客セグメンテーションの記事でも説明したように、「平均値な顧客」をターゲットにすることは様々なリスクを伴います。
正規分布の頭でビジネスを考えると、「平均的な顧客」をターゲットにしがちです。 しかし、Webサービスやアプリの世界では、「平均的なユーザー」など存在しません。
「熱狂的な一部のヘビーユーザー」と「一度しか来ないライトユーザー」の平均値をとったとしても、実態を表すデータは得られないでしょう。
これは、他の業界、例えば金融の世界でも同様です。
株価の変動を「正規分布」だと仮定してリスク計算をしていた金融機関が、リーマンショックのような「ありえない確率(ブラック・スワン)」の大暴落に直面し、破綻しました。
正規分布は便利な道具ですが、万能ではありません。
「想定外」を想定するためにこそ、分布の形を見極める目が必要なのです。
定規を使い分ける
つまり、品質管理や自然データを見るなら、「正規分布」は効果的なのツールとなりますが、マーケティングの世界においては、「べき乗則」の視点が必要になるということです。
重要なのは、目の前のデータに合わせて「定規」を持ち替えること。
「世の中はベルカーブだけではない」と知っているだけで、あなたの分析力は一段階レベルアップするでしょう。



