時間選好とは?意味と定義を3分で解説【マーケティング用語辞典】

行動経済学
編集長
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私たちは、頭では「将来のために我慢すべきだ」とわかっているのに、なぜこれほどまでに「目の前の快楽」に弱いのだろう。

ひな
ひな

どうしたの急に

編集長
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多くの人はこれを「意志が弱いからだ」と自分を責める。

しかし、経済学の視点で見れば、これは性格の問題ではない。

「時間的選好(Time Preference)」という、人間が本来持っている評価システムのバグなのだ。

ひな
ひな

(自分に言い聞かせてる…?)

時間選好とは?

まず、言葉の定義から始めましょう。

時間的選好とは、オーストリア学派の経済学者オイゲン・フォン・ベーム=バヴェルクらが提唱した概念で、一言で言えば「将来の大きな価値よりも、現在の小さな価値を優先してしまう度合い」のことです。

個人のせっかちさを表す指標ともいわれます。

この度合いを時間的選好率という指標を使って、例えば、現在の消費をあきらめて、貯蓄にお金を回すことができる我慢強さを持った人を時間選好率が低い、と評価します。

みなさんも、「ダイエット中だとわかっているのに、目の前のケーキを食べてしまった」 「将来のために勉強しなきゃいけないのに、ついスマホを見て夜を明かしてしまった」 「夏休みの宿題を、8月31日まで放置してしまった」といった経験があるはずです。これらは時間的選好率の高い行動をとってしまった結果です。

これをわかりやすく示した「マシュマロ・テスト」という有名な実験があります。

幼い子供の目の前にマシュマロを一つ置きます。 そして、「おじさんが戻ってくるまで15分間、食べるのを我慢できたら、もう一個あげるよ」と言い残して部屋を出ます。

結果は残酷でした。

我慢できずに食べてしまった子(時間選好率が高い)と、我慢して二つもらえた子(時間選好率が低い)。

数十年後に彼らを追跡調査すると、我慢できた子供たちの方が、学業成績が良く、年収が高く、肥満率も低く、社会的成功を収めている傾向が強かったのです。

これは個人に限った話ではありません。人類の歴史そのものが、「時間選好率を下げる努力をしてきた」プロセスとも言えます。

原始時代、人類はその日暮らしの狩猟採集生活をしていました。

お腹が空いたら狩りをする。採れた野菜や果物はその日に消費する。

これは「超・高時間選好」の状態です。

しかし、ある時人類は気づきました。

「今日、手元にある種を食べてしまわずに、土に撒いて数ヶ月待てば、何百倍にもなって返ってくるぞ」と。

これが農業の始まりです。 現在の空腹を犠牲にして、未来の収穫を選ぶ。

この「待つ」という行為、つまり時間選好率を低くすることこそが、資本を蓄積させ、文明を発展させてきた原動力なのです。

Amazonの成功事例から見る時間選好

編集長
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ここからが面白いところだ。

この「時間的選好」のレンズを通してビジネス界を見渡すと、Amazonという企業のすごさが浮き彫りになる。

Amazonの創業者ジェフ・ベゾスは、株主に対して「利益が出ても配当は出さない。すべて将来への投資に回す」と宣言し続けました。

目先の利益を出そうと思えば出せたはずです。しかし彼はそれをせず、倉庫を作り、サーバーを増強し、物流網を整備しました。

「10年後の帝国の支配」のために、今の果実をすべて捨てる。 これは、極めて「時間選好率が低い」経営戦略です。

一方で、彼が顧客に提供したサービスは何でしょうか?

「ワンクリック注文」「翌日配送」など、欲しいと思ったら、指先一つで明日届く、顧客の「時間選好率を極限まで高める」サービス群です。

人間の脳が持つ「今すぐ欲しい!」という本能的な衝動をハックし、我慢させる隙を与えずに快楽を提供する。

自社は「賢明なアリ」として振る舞いながら、顧客の「衝動的なキリギリス」の欲望を最大限に満たすことで、Amazonは圧倒的勝者に昇り詰めたのです。

時間選好を煽る現代の罠

一方で、これを消費者の視点から見ると、ちょっと危険な状況ともいえます。

世界中の優秀なマーケッターや企業が、四六時中あなたの時間選好率を高めようとあの手この手で仕掛けているからです。

ECサイトの限定セールのカウントダウン

SNSのショート動画の無限スクロール

これらはすべて、あなたの脳のドーパミン報酬系をジャックし、将来のことより今の快楽へ意識を向けさせる仕掛けです。

ちなみに、経済学には「割引率(Discount Rate)」という概念があります。 「来年の100万円は、今の自分にとって何万円の価値があるか?」という計算です。

もしあなたが、「来年100万円もらえる権利」を、「今すぐもらえるなら50万円で手を打つ」と考えるなら、あなたの心の中の割引率は50%です。 これは非常に「せっかち」な状態で、未来の価値を半分に割り引いてしまっています。

逆に、「95万円以下なら売らない」と考えるなら、割引率は5%です。

この「未来の価値を低く見積もってしまう思考の癖」は、自分の未来の資産を安値で叩き売ることにつながります。

では、私たちはどうすれば、この本能と現代社会の罠に打ち勝つとができるのでしょう。

性格まで変える必要はありません。例えば、次のように「認識を変える」だけで、この思考癖を改善することができるとされています。

1. 未来の解像度を上げる

人間が「今」を優先してしまう最大の理由は、未来が「ぼんやり」しているからです。

マシュマロ・テストで我慢できた子供たちは、ただ耐えたのではありません。

「目を閉じる」「別の歌を歌う」などして気を紛らわせたり、「2つになった時の喜び」を具体的に想像したりしていました。

10年後、どんな生活をしていたいか?

その映像が4K画質のように鮮明であればあるほど、今の1万円を浪費することの「痛み」を感じられるようになります。

2. 「消費」を「投資」と読み替える

勉強も、筋トレも、貯金も、「我慢」だと思うと続きません。

それらはすべて、「未来の自分へ送金すること」と考えてみましょう。

今日、あなたが英語の勉強を1時間することは、10年後のあなたに「自由な選択肢」というギフトを送っているのと同じです。

今日、あなたが暴飲暴食を控えることは、20年後のあなたに「健康な肉体」を送金しているのと同じです。

3. 環境をハックする

意志の力には頼ろうとしないことも大切です。

私たちの脳は、AmazonやNetflixのアルゴリズムに勝てるようにはできていません。

だから、物理的に遮断します。

スマホを別の部屋に置く、クレジットカードを持ち歩かない、給料が入ったら自動で積み立てる。 大切なのは「マシュマロを見ない」環境や仕組みを作ることです。

あなたはどちらを選ぶ?

ベーム=バヴェルクが解き明かしたように、利子とは「我慢の対価」です。

そして人生における成功とは、長い時間をかけて蓄積された「複利」の結果です。

世界は今、二極化しています。

テクノロジーの波に乗って「時間選好」を刺激され、その日暮らしの快楽に溺れる人たち。

そして、その波を冷静に見つめ、一時の快楽を捨てて、淡々と未来に種を撒き続ける人たち。

「アリとキリギリス」の寓話は、子供向けのおとぎ話ではなく、 資本主義社会の本質を突いた予言書だったのかもしれません。

マシュマロを今すぐ食べるか、それとも増やして食べるか。

その小さな選択の連続が、あなたの人生という資産を築いていくといえるでしょう。

この記事を書いた人
Neuviate

早稲田大学中退後、輸出入事業やIT事業など、多岐にわたるビジネスの現場で失敗と成功を繰り返しながら実務経験を積む。その後、教育系事業の広告・マーケティングに従事し、実践的なノウハウを体系化。同事業で培った実績をもとに独立を果たす。独立後は、豊富な経験を活かし、物販事業、士業の集客コンサルティングを専門に手掛けている。
著書に『高校生のマーケティング大全: AI時代を生き抜く最強の脳内OSをインストールする』がある。」

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