
あなたには今、好きな人がいますか?

…?

その人を射止めたいと思ったとき、手当たり次第に誰にでも声をかけたり、誰にでもウケそうな無難な贈り物をしたりはしませんよね。

ま、まあ…。そうですね。

相手の性格や好みを必死に考え、その人の心にだけ響く言葉を選び、プレゼントを贈ろうとするはずです。
ビジネスもこれと同じなんです。

(なんか、話が入ってこない…)

顧客の心に深く届くのは、拡声器で呼びかけるのではなく、「あなたへ」と耳元で囁かれるメッセージです。
これを実現するための考え方が、今回解説する「顧客セグメンテーション」です。

(編集長、たまにAIっぽくなるよな…)
顧客セグメンテーションとは?
顧客セグメンテーション(Customer Segmentation)とは、不特定多数の顧客を、共通のニーズや特性を持ったグループ(セグメント)に分類する手法のことです。
1950年代に市場調査の一環として生まれ、マーケティングの大家フィリップ・コトラーがその重要性を説いたことで、マーケティングの重要概念となりました。
「すべての人に向けた商品は、誰の商品でもない」
製品開発、マーケティングなどビジネスだけでなく、コミュニケーションなど様々な場面において、非常に重要な原則です。
経営は「リソース配分」であるという前提
顧客セグメンテーションを考える上で、非常に重要な前提があります。
それは、「私たちには限界がある」ということです。
経営学において、ビジネスの基本は「限られたリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)を、いかに効果的に配分するか」ともされます。
もし、あなたに無限の資金と広大な土地をもってカフェを開業しようとしたとしましょう。
「静かな個室」と「立ち飲みカウンター」と「カップルシート」をすべて完備し、最高級のコーヒーを安く出す巨大なカフェを作り、全員を満足させることができるでしょう。
でも、現実のビジネスに「無限」はありませんよね。
限られた予算、限られたスペース、限られたスタッフ。
この制約の中で成果を出すためには、「誰かに手厚くするために、他の誰かを捨てる」という苦渋の決断が必要になります。
この前提を無視して、限られたリソースを全員に均等に配ろうとすると、どうなるでしょうか?
ここで陥るのが、次の「平均的な人間の罠」です。
「平均的な人間」なんていない
心理学的な視点で見ると、私たちは自分が「その他大勢」として扱われることを嫌います。
自分の悩みや状況を理解してくれている、自分ごとの情報にしか反応しません。
大手のように資金が潤沢にあるわけでもないカフェ経営者が、限られたリソースを分散させ、全員にいい顔をしようとしたらどうなるでしょう。
このカフェには次のような3種類の顧客候補がいるとします。
Aさん: 出勤前の会社員。「急いでカフェインを摂取したい」。
Bさん: ノマドワーカー。「Wi-Fiと電源が欲しい、長居したい」。
Cさん: デート中のカップル。「お洒落な空間と甘いケーキが欲しい」。
この3人のニーズの「平均」をとって、「そこそこの提供の速さで、そこそこ長居できて、そこそこおしゃれな店」を作ったら?
Aさんには「遅くはないが、早いわけでもない」と言われ、
Bさんには「Wi-Fiはあるけど、電源がなければ長居はしにくい」と言われ、
Cさんには「ダサくはないけど、これと言ってムードもない」と言われてしまうでしょう。
限られたリソースを薄く広く伸ばした結果、中途半端な店になって、誰にとってもありがたくないお店になってしまいます。
セグメンテーションとは、リソースを狙った顧客に集中投下するための準備作業として、この3人を混ぜて平均的な人格とせずに明確に切り分ける作業のことです。
市場を切り分ける
市場を切り分けるとはいっても、どのようにアプローチしたらよいでしょう。
かつての大量生産の時代には、「20代男性」といった大雑把な分け方でも通用したかもしれません。
しかし現代は、同じ「20代男性」でも、その生活スタイルやニーズははるかに複雑です。
このような複雑な市場をセグメンテーションするために、現代のマーケティングでは、大きく分けて「4つの切り口」を使って切り分けます。
1. 地理的変数(ジオグラフィック)
まずは、どこに住んでいるか?とうい物理的な場所とその特性で分ける、最も基本的な切り口です。
国、地方、都道府県、市区町村、気候、人口密度、都市部か地方か、などです。
例えば、北海道と沖縄では、気候も文化も違うので、売れる服も違いますよね。
これによって、車を売る場合でも、「東京の都心では小回りが利き駐車しやすい車」を求める消費者が多い一方で、「地方では悪路に強く長距離走れる車」が求められやすいのでは?という検証ができます。
2. 人口動態変数(デモグラフィック)
人口動態変数とは、年齢、性別、職業、所得、学歴、家族構成といった客観的な属性を基づいた統計的データで消費者を分類する変数のことです。測定しやすいため、頻繁に使われる切り口です。
例えば、住宅販売では、「独身貴族」と「子育てファミリー」では、都市部のマンションがいいのか、庭付きの一戸建て住宅が良いのか、など訴求ポイントが真逆になりますよね。
3. 心理的変数(サイコグラフィック)
心理的変数(サイコグラフィック)とは、年齢や性別といった表面的な情報ではなく、価値観、ライフスタイル、性格、趣味、興味などの心理的な側面に基づいて消費者を分類したものです。
年齢や性別、住んでいる場所同じだったとしても、価値観が違えば、買うものは全く異なります。
「東京に住む年収1000万円の30代男性」という属性をもったAさんとBさんでも、例えば次のように心理的変数が異なります。
Aさんは、ミニマリスト。無駄を嫌い、機能的なユニクロやアウトドアブランドを好む。
Bさんは、ステータス志向。高級車に乗り、ブランドロゴが入った服を好む。
地理的変数や人口動態のように目に見えるわかりやすい基準ではないので難しい部分ですが、現代マーケティングにおいては、非常に重要な切り口です。
4. 行動変数(ビヘイビアル)
文字通り、顧客の「実際の行動」に基づいて分ける手法です。デジタルマーケティングではこれが強力な武器になります。
例えば、商品の購入頻度、購入タイミング、購入経路、使用シーン、利用目的など、です。
オンラインショップの購買履歴からわかった「毎日飲むヘビーユーザー」に対してはは「箱買いでお得に!」などのキャンペーン訴求を行ったり、「特別な日にしか飲まないライトユーザー」に対しては「高級ビールでちょっと贅沢を」といった訴求を行ったり、という具合です。
オンラインショップ上で「カートに入れたけど買わなかった人(いわゆる「カゴ落ち」)」にだけクーポンを送る、というのもこの手法ですよね。
具体例:スポーツジムの生存戦略
さて、セグメンテーションのプロセスを、具体的なシーンで考えてみましょう。
ある「24時間営業のスポーツジム」が会員を増やそうとしています。
もしセグメンテーションなしに「スポーツジムに行きたい人は誰でも歓迎!」といったあいまいなターゲッティングのチラシを配ったらどうなるでしょう。
大手チェーンとの価格競争に巻き込まれて終わり、となる可能性が非常に高いです。
そこで、まず顧客層をこう分解してみます。
ガチ勢: 筋肉を大きくしたい。マシンの質を重視。
ダイエット勢: 痩せたいけど続かない。モチベーティングや指導を重視。
健康維持勢(高齢者): 体力を落としたくない。趣味やリフレッシュ、人との交流を重視。
深夜・早朝勢: 残業後のリフレッシュや仕事のパフォーマンスアップ。静かさ、集中できる環境を重視。
このようにセグメンテーションを行い、市場や競合分析の結果、このエリアには「4. 深夜・早朝勢」が多いのに、受け皿がないことが分かったしましょう。
そこで「仕事終わりの深夜2時にじっくりと集中できる、あなただけの静寂なジムタイムを」とか、「あさイチの自己成長スペース。静かに自分と向かい合い、仕事もプライベートもパフォーマンスアップを」などとチラシやサイト、広告で打ち出す。
これによってターゲットは狭まりますが、その層に刺さる深さは段違いになります。
6. セグメンテーションとターゲティング
ここまで説明してきたように、「ターゲット」を決めることは、ビジネスにおいて非常に重要なプロセスです。
とは言え、市場の全体像が見えていない状態でのターゲティングは、ただの「当てずっぽう」になってしまうため、その前提として精度の高いセグメンテーションが大切なのです。
Segmentation(分ける): 市場にはどんなグループが存在するのかを可視化する。
Targeting(絞る): 自社の強みが活きる、最も魅力的なグループを選ぶ。
Positioning(位置取る): そのグループの脳内に、独自のイメージを植え付ける。
この「STP分析」の最初のステップこそが、成功の土台となります。
STP分析については、こちらの記事をご覧になってください。



