
STP分析や顧客セグメンテーションの記事で、市場を属性で分析する重要性を説明したね

「年齢」とか「どこに住んでるか」で市場を切り分けてターゲティングすることが大事なんだよね

そのセグメントがどういった商品を必要しているか、その傾向や相関を分析するには便利だが、「なぜ、その商品を買うのか」まで深堀するためにもっと効果的な考え方がある。

それが、「ジョブ理論」だ
ジョブ理論とは?
ジョブ理論は、、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱しました。
顧客は生活の中で発生した「片付けるべき用事=ジョブ」を解決するために、商品やサービス「雇用」している。
という考え方です。

これを理解する上で、絶対に外せない事例が「ミルクシェイク」の話だ。

ミルクシェイク好き

あるファストフードチェーンが、ミルクシェイクの売上を伸ばそうとした時の話だ。
ミルクシェイクをよく買う顧客を集め、「もっと安くすればいいか?」「もっと濃い味がいいか?」などとアンケートを取って、その要望通りに改良したが、全く売り上げは向上しなかった。

なぜだろう?

そこでクリステンセン教授のチームは、店舗で「誰が、いつ、どんな状況で買っているか」を観察したんだ。
「早朝、一人で車通勤する男性」が多くミルクシェイクを買っていることに気づいた。

あまりミルクシェイクを飲みそうにない人たちだね

チームは彼らになぜミルクシェイクを買うのか、その理由をインタビューした。
そして、真の購入理由=ジョブが見えてきたんだ。
彼らの購入理由はこうでした。
「運転しながら、腹持ちの良いものを口にしたい。運転の間、すぐ食べ終わるものじゃなくて、退屈しのぎに長く口にできるものがよい」
つまり、彼らは、通勤中に摂取する朝食としてミルクシェイクが都合がよいので購入していたということです。
バナナだとすぐ食べ終わってしまうし、ドーナツだと手がべたべたしてハンドルが汚れます。
ベーグルではパサパサしてのどが渇く。
対して、ドロドロしていて吸うのに時間がかかり、片手で飲めて汚れず、腹持ちがいいミルクシェイクが、 この条件を完璧に満たしていたのです。
この発見により、店側は「味を変える」のではなく、「よりドロドロにして吸引時間を長くする」「果肉を入れて食感を変える」という正しい改善策を打ち出し、売上を爆増させました。
「ドリル」と「穴」
この考え方は、実は昔からあるマーケティングの格言とよく符合します。
レビット博士の有名な言葉です。
「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく『穴』である」
これはジョブ理論の核心そのものですが、ジョブ理論はここからさらに深く踏み込みます。
「どんな状況=文脈で、その穴が必要なのか?」まで掘り下げるのです。
例えば、ドリルを買いに来た人は、日曜大工で子供のために本棚を作ってあげたいのか、それとも、駐輪スペースを作るため駐車場のコンクリートに杭を打ちたいのか。
「穴」というニーズは同じでも、「文脈」が違えば、選ばれる商品は全く異なってきます。
もしジョブが「棚のある部屋を作ること」なのであれば、そもそも解決策は「ドリル」だけではありません。「突っ張り棒」でもいいし、「組み立て済みの家具」。これらも競合になりえます。
このように、「商品」は、顧客が成し遂げたい「進歩」のための手段に過ぎない、という視点を持つことが、ジョブ理論のスタート地点です。
ジョブ・ステートメント
顧客がどのような「仕事」(ジョブ)を達成するために製品やサービスを「雇用(hire)」するのかを明確にするためのフレームワークが、「ジョブ・ステートメント」です。
顧客ジョブを次の3つの要素を含む構文に当てはめて言語化します。
顧客は、「(どういった状況)のときに、(どういった動機)で、(期待する成果)を手に入れたい」と考えている。
ミルクシェイクの例でいうと、
「(朝の通勤中)のとき、(退屈を紛らわせたいという動機)で、(お腹が満たされ、運転を邪魔しない何か)を手に入れたい」
となります。
どんな時にジョブ理論を使う?
顧客を属性で切り分けるセグメンテーションと、ジョブ理論ではその役割が違います。
ジョブ理論は、「動機(Why)」や「状況(Context)」を分析することに重点を置きます。
属性は「ターゲットを絞る」時には役立ちますが、「商品開発」や「イノベーション」においては、因果関係を説明できるジョブ理論の方が強力といえるでしょう。
そのため、商品が「コモディティ化」して売れなくなってしまい、スペック競争から抜け出して「どんな場面で使われているか?」に立ち返りたいときや、 業界の垣根を超えてシェアを奪うヒントを得たいとき、イノベーションを起こしたい時などに威力を発揮します。


